01/12/2024

アルペンスキーと陸上の“二刀流”で活躍
-村岡桃佳さん

ミリ単位の調整、コンマ1秒の挑戦で高みを目指す

今回、お話を伺ったのは北京2022パラリンピック冬季競技大会での3個の金メダルを含め、これまでに9個のメダルを獲得してきた村岡桃佳さん。アルペンスキーのほか、東京2020パラリンピック競技大会では陸上競技の短距離に出場し、6位入賞するなど、スキーと陸上の二刀流のアスリートとして注目を集めています。目下の目標はパリ2024パラリンピック競技大会出場と話す村岡さんに、2つの競技の魅力などを語っていただきました。

平昌2018大会で5個のメダルを獲得

 アルペンスキーでは4つの金メダルを獲得するなど「冬の女王」と呼ばれてきた村岡さん。競技スキーに目覚めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。

「実は、最初に始めたパラスポーツは陸上競技だったんです。その陸上競技がきっかけで知り合った友人に誘われて、試しにやってみたチェアスキーが思った以上に楽しくて。スキーって冬しかできない競技ですよね。だからこその特別感や非日常感といったところに魅力を感じて、スキーに行く回数が増えていったんです。どんどんのめり込み、競技スキーの世界に足を踏み入れたことで、陸上からは次第に足が遠のいていきました。」

 17歳のときに出場されたソチ2014パラリンピック冬季競技大会では、大回転で5位入賞を果たします。

「ソチ2014大会で気持ちに火が付き、次の平昌2018パラリンピック冬季競技大会では絶対に金メダルを手にしたいと思ったんです。それで4年間、スキーに集中して取り組んだ結果、5種目(滑降・スーパー大回転・スーパー複合・大回転・回転)全てで表彰台に立ち、金メダル1個、銀メダルと銅メダルが2個ずつの計、5個のメダルを獲得することができました。努力が実り、自分が思っていた以上の成績を残せたという達成感を味わえて、それはもううれしかったです。」

東京2020大会を目標に、陸上競技に挑戦

自国開催となった東京2020大会では陸上競技に挑戦されます。

「パラアルペンスキーで結果を残せたことで、次は陸上競技にもきちんと向き合ってみたいと考えるようになったのです。東京2020大会の開催が決まったことで、パラスポーツも盛り上がりを見せていたので、距離を置いていた陸上に今度は本格的な競技レベルで取り組んでみたいと挑戦を決意しました。」

アルペンスキーと陸上競技には通じるところがあるのでしょうか。

「それが…あまり無いんです。スキーは、何もしなくても山を下っていけばどんどんスピードが加速していきます。そのスピードを殺さずにコントロールして、ターンをしながら最速でゴールに向かう。一方、陸上競技は、スピードがゼロの状態から自分の力で車輪を駆動させてゴールまで行かなければなりません。陸上競技に取り組み始めたときは、そうした競技特性の違いに難しさを感じました。」

難しさを特に感じたのはどんな点でしょうか。

「私の場合、下半身がまひしているため、上半身の機能をフルに使って遠心力や外力に負けないように姿勢をキープしなければなりません。そのこと自体はスキーも陸上も同じですが、陸上は力がより必要で、とにかくハード。上半身の筋肉をそこまで使ったことがなかったので、最初はパワーがまったく無くて体力が持たない。それを実感して、最初の頃はつらくて仕方ありませんでした。」

スピード感とダイナミックさが魅力

想像以上に大変だった陸上競技を、やめずにトライし続けたというのにはどんな理由があったのでしょう。

「自分だけではなく、選手みんながそのつらさと闘い、努力を積み重ねてレースで全力を尽くす。その姿を見てカッコイイ!と思うと同時に、自分もそこに到達したいと思いました。競技用の車いすって3輪で形状も独特。実際に乗って、上半身を使って思い切り車輪を動かすと、どんどんスピードが上がっていき、アルペンスキーとは一味違う、スピード感やダイナミックさに面白さを感じました。」

観戦していてもその魅力が伝わってきます。

「レースとなると、速い選手は時速30km以上のスピードでトラックを駆け巡ります。短距離はスタート後にいかに早くトップスピードに持っていくかで0.1秒を争いますし、中長距離ではレースの駆け引きといった戦略のほか、直線とコーナーでハンドル操作を変えるなどメカニック的な要素も重要になっていきます。」

 選手の脚となるチェアスキーも記録を伸ばす上で重要な役割を果たしているよう思われます。

「私のような座位競技で使用するチェアスキーは、障がいや体に合わせて作られ、体を乗せるシートも、衝撃を和らげる『膝』の役割をするサスペンションも全てカスタマイズされます。さらに、コースや雪質によってチューンアップするなど、レースで最大限のパフォーマンスができるよう、自分の身体同様にコンディションを整えます。マシンは私の身体の一部。常にミリ単位の調整をし、日々努力を重ねて高みを目指しています。」

これからも続く二刀流の挑戦

 陸上競技100mに出場し見事6位に入賞した東京2020大会の半年後に開催された北京2022冬季大会では、アルペンスキーで金メダル3個、銀メダル1個を獲得するといった驚異的な活躍をされました。

「本来であれば、約1年半の準備期間を設けて冬の大会に臨む予定だったのですが、東京2020大会が延期になったことで準備期間はほぼ無しの状況になりました。陸上とスキーに同時進行で取り組んで、とにかく目が回るような忙しさ!でも、短期間で2つの競技を行ったり来たりしたからこそ、それぞれの魅力や楽しさを再確認することもできました。来年のパリ2024大会、そして、ミラノ・コルティナダンペッツォ2026パラリンピック冬季競技大会を目指し、これからも二刀流の挑戦を続けていきたいです。」

 東京2020大会では、ボランティアの皆さんも含め、ホスピタリティが話題になりました。村岡さんから見て、東京という都市の魅力はどんなところにあると思いますか。

「『ザ・都会』といったビル群が立ち並ぶ都心から、自然豊かな郊外など、幅広い顏を持つところに魅力を感じますね。スポーツ大会が開催される競技場も至る所にあり、交通のアクセスが便利でバリアフリー化も進んでいる点は海外の方や障がい者からも評判がよいようです。

私個人としては、サンリオのキャラクターが大好きなので、サンリオピューロランドのある多摩エリアがおすすめです。広々とした自然が広がり、ゆったりとした時間を楽しむことができます。郊外といっても電車で気軽に行けるエリアなのでぜひ、足を運んでみてください。」

村岡桃佳
MURAOKA Momoka

1997年、埼玉県出身。4歳のときに病気の影響で車いすでの生活に。小学3年でチェアスキーと出合い、中学2年から競技スキーをはじめる。ソチ2014パラリンピック冬季競技大会に出場し、大回転で5位入賞。平昌2018パラリンピック冬季競技大会では、5個のメダルを獲得。その翌年からは陸上競技にも本格的に取り組み、東京2020パラリンピック競技大会陸上競技100mに出場し6位入賞。半年後に開催された北京2022パラリンピック冬季競技大会では、金メダル3個、銀メダル1個を獲得。