01/24/2025

滑り競う楽しさを思い出させてくれたスキークロス
-新井真季子さん

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戦略が問われる雪上のサバイバルレース

4人の選手が同時にスタートして、起伏に富んだコースを滑りながら順位を競うスキークロス。雪上のサバイバルレースともいわれる競技で活躍しているのが新井真季子さんです。もともとアルペンスキーで活躍した後、2022年にスキークロスに転向。新たな種目に挑む新井さんにスキークロスの魅力や今後の目標の他、東京のおすすめスポットを教えていただきました。

中学3年生の時にオーストリアへ留学

新井さんは雪景色が美しい街として知られる岐阜県高山市の出身です。やはり幼い頃からスキーは身近な競技だったのでしょうか。
「父がスキー場関係の仕事をしていたこともあり、物心つく前から4歳上の姉と一緒にスキー場で遊んでいました。姉が本格的にスキーを始めれば自分もと後を追って必死に付いていく感じで。幼い頃から負けず嫌いで、姉を追い越したい一心でがむしゃらに滑っていた記憶が今も残っています。小学生になるとアルペンスキーの大会に出場するようになったのですが、どこかのクラブチームに所属するわけでもなく、スキーは父に教わり、週末は家族と一緒に大会が開催されるスキー場へ出かけていました。行った先々で家族と温泉に入って、おいしいものを食べるのが楽しみ。あくまで家族行事の一環としてスキーがあったという印象です。」

とはいえ、全国大会で優勝する実力の持ち主で、中学3年生の夏から単身でアルペン大国オーストリアに渡り、スキー選手育成校として指折りの専門学校に入学します。
「ジュニアの大会で優勝し、国際大会に出場するようになるとだんだんと世界を意識するようになりました。そんな時にオーストリアにスキーの専門学校があるのを知り、とりあえず試験だけでも受けてみようと挑戦したら合格。中学3年の途中で海外へ渡りました。行ったら行ったで、大変なことが待っていました。まず言葉が通じない。授業は全てドイツ語で行われるのでまったく理解できないし、全寮制で外出できるのは週に1日。4年制なのですが最終学年になるまでに同級生の半分くらいはいなくなっていました。」

アルペンからスキークロスに転向

苦労しつつも、オーストリアで4年間技術を磨き、日本に帰国後もアルペンスキーヤーとして実力を発揮します。そうした中、2022年からは競技種目をスキークロスに転向しました。
「もともとオリンピックに出場するのを目標にアルペンを続けていましたが、両膝共に前十字靭帯断裂というケガを何度となく負って。その都度、手術をして復帰はしてきたのですが、この膝ではもう、持たないかもと思っていた矢先に、スキークロスをやってみないかと声をかけていただきました。試しに大会に出てみたのですがこれがなかなか面白くて。タイムを競うアルペンと違い、スキークロスは4人で一緒に滑って順位を競います。この感覚が新鮮で……というよりは、幼い頃にゲレンデで姉と一緒に競い合いながら滑っていた感覚がよみがえってきて。スキーって楽しい!と純粋に思えていたあの頃と同じ感覚になり、迷わず転向を決めました。」

実際に競技する側になってみて、スキークロスの魅力はどんなところに感じますか。
「コース内にはジャンプやウェーブ、バンクなどの起伏があって、それらを高速でクリアする技術はもちろんのこと、選手同士の接触や駆け引きなども順位に大きく影響を及ぼします。雪上のサバイバルレースといわれるほどの迫力あるスポーツですので、見ている側もハラハラドキドキしますよね。一瞬の判断で形勢が逆転するレース展開こそがこの競技の面白さであり、醍醐味と言えるのではないでしょうか。」

得意のターンを生かしたレース展開

滑っている最高速度が時速100kmぐらいになると聞きました。その中での接触やクラッシュは怖さが先に立ちそうです。
「まずは接触しても負けない体と心と技術を身に付けることが重要になってきます。私の場合、ウエイトトレーニングを強化して体をつくり、7kgほど体重を増やしました。あとは持久力も大事になってくるのでインターバルトレーニングにも力を入れています。」

アルペンでの経験はどのように生かされているのでしょうか。
「スキークロスでいちばん有利なのはスタート時点で最初に前に出ること。ただ、アルペン上がりの私が得意なのはターン。高速でターンをし、そこから直線にかけて一気に加速し、抜きにかかります。ですから、レースでは、前を滑る選手にどこまで付いていってどのタイミングで抜くかというのは常に考えています。レースの組み立てに関しては他の選手の特徴を分析しながらどこでどう攻めるか戦略を立てていきます。そういった意味でも一緒に戦略を考えてくれるコーチをはじめとするチームのメンバーは自分にとって心強い存在です。」

ミラノ・コルティナ2026オリンピック冬季競技大会への期待も高まります。今季も含め、今後の目標などをお聞かせください。
「やはり目標はオリンピックですね。まず、出場するためには、五輪が開催される前年から五輪直前までの約1年半の間で行われるFISワールドカップで獲得したポイントの合計で上位32位以内に入るという条件があります。それを達成するために、今シーズンはヨーロッパカップをメインに転戦し、3月にスイスで開催される世界選手権に出場して、しっかりと結果を残していきたいです。」

まさに世界各国を舞台に戦いが続くということですね。スキー場の様子も国によってさまざまですが、ご自身の中で好きなエリアというのはあるのでしょうか。
「私はイタリアが好きですね。視界が開けているスキー場が多くて、滑っていてとても気持ちがいいんです。それこそ、オリンピックが開催される北イタリアのドロミテは世界遺産にも登録されていて、その絶景とコースの豊富さ、広さ、雪質、環境などどれも素晴らしくて大好きなエリアです。」

海外の選手と東京で昼飲みを楽しんでみたい

オフシーズンはどのように過ごしているのでしょうか。東京のお気に入りのスポットがあればぜひ教えてください。
「姉が東京に住んでいて、オフの時はもっぱら2歳と4歳になる甥っ子たちに会いに行くのが楽しみです。だいたい近くの公園に出かけるのですが、中でも最近行ってすごくよかったのが世田谷区上用賀にあるJRA馬事公苑。東京1964オリンピック競技大会と東京2020オリンピック競技大会の両大会では馬場馬術競技の会場にもなった場所です。苑内は芝生が広がっていて子どもたちが寝転びながら遊んでいたり、ピクニックを楽しんでいる人たちがいたりと皆さんリラックスしながら過ごしています。馬術競技を見ることができたり、馬と触れ合えるイベントもあったりで大人も子どもも、海外から来た方でもきっと楽しめる場所だと思います。」

他にご自身が東京で行ってみたい所ややってみたいことはありますか?
「海外選手に東京を案内がてらやってみたいのが昼飲みです。最近になってお酒を飲めるようになったので、上野周辺で昼間からお酒が飲めるお店をはしごしてみたいです。安くておいしい居酒屋メニューって、日本ならではですよね。そうしたものをちょこちょこ食べながら、みんなでワイワイにぎやかに飲んだらきっと盛り上がるし、楽しめるんじゃないかなって。ぜひ、実現してみたいです。」

新井真季子
ARAI Makiko
1993年生まれ、岐阜県出身。中学3年生の時に単身オーストリアに渡り、スキー専門学校へ留学。2013年に帰国し、スキーの名門・法政大学に入学。FISファーイーストカップで種目別優勝を達成。順調に成績を残していた矢先、2017年に左膝前十字靭帯断裂に見舞われる。2022年競技種目をアルペンからスキークロスに転向し、ナショナルチームのメンバーとして活動をスタート。ミラノ・コルティナ2026オリンピック冬季競技大会を目指す。