12/01/2023

「一本!」を狙って攻める戦い方が視覚障害者柔道の魅力
-瀬戸勇次郎さん

東京2020パラリンピック競技大会で銅メダルを獲得

今回、ご紹介するのは視覚障害者柔道で活躍する、柔道家の瀬戸勇次郎さんです。
東京2020パラリンピック競技大会では男子66キロ級に出場。準々決勝で敗れるも、敗者復活戦を勝ち上がり3位決定戦に出場し、見事な一本勝ちで銅メダルを獲得しました。現在、筑波大学に拠点を置きながら活動している瀬戸さんに、東京2020大会を通して感じた東京の魅力やパリ2024パラリンピック競技大会への意気込みを語っていただきました。

高校3年で視覚障害者柔道に転向

瀬戸さんが柔道を始めたのは4歳のとき。きっかけはどんなことだったのでしょうか。

「2歳上の兄が先に柔道を習い始めていて。その様子を見て、自分もやりたいと親にお願いしたのが最初でした。まずはスポーツ少年団に入り、中学、高校では部活動で健常者と一緒に練習をし、試合にも出場していました。」

 福岡県屈指の進学校としても知られる福岡県立修猷館しゅうゆうかん高等学校に入学。高校3年生のときに視覚障害者柔道に転向します。
「団体戦の全国大会、金鷲旗きんしゅうき高校柔道大会に出場した際、視覚障がいがある選手が大会に出ていると新聞に掲載されたことがきっかけとなりました。
その記事を読んだNPO法人日本視覚障害者柔道連盟の方から高校に連絡があり、顧問の先生を通してお誘いを受けました。
物は試しと出場した第10回全国視覚障害者学生柔道大会でまさかの優勝。その数カ月後に出場した全日本視覚障害者柔道大会では3位になりました。
自分の上には、パラリンピック3大会連続金メダルを含む5つのメダルを獲得している藤本聰選手を含めて2人。それまで出場していた健常者の大会では思うような成績が出せなかったものの、ここでなら日本一を目指せるかもと思ったんです。
連盟の広報媒体にも『未来のパラリンピアン!』といった紹介のされ方までして、自分でもなんだかその気になって。それで、思い切って視覚障害者柔道にかじを切ることにしました。」

組み合った状態で“一本”を狙う

同じ柔道とはいえ、ルールも変わるだけに戸惑うこともあったのではないでしょうか。

「視覚障害者柔道の場合、組み合った状態から試合を始める点が大きな特徴です。技の入り方など独特な戦い方になるので慣れるまでにはそこそこ時間がかかりました。何より鍛えなきゃならないのは腕力。相手の襟元をずっと握っていなくてはならないので、最初の頃は腕がパンパンに張ってすぐに疲れてしまう。相手も自分の襟元をしっかりと持っているのでうかつに技に入ることもできず、膠着こうちゃく状態が続くということも珍しくありません。」

 試合の見どころはどんなところでしょう。

「試合の多くが“一本”で決まります。“技あり” の優勢勝ちや、“指導3つ”の反則勝ちというよりは、背負い投げなどの一本で決めた方が選手はもちろん、見ている方もスッキリしますよね。時間稼ぎをして逃げて勝つよりも、一本を狙って攻める試合がほとんどですので、スピード感や迫力もある。見応えある試合展開は、見ている皆さんもシンプルに楽しめると思います。」

次こそ、目指すは金メダル

東京2020大会までは、66キロ級で戦ってきた瀬戸選手ですが、クラス分けのルール変更によって今は、73キロ級へと階級を上げています。
「階級を上げたことにより、目下の課題は体重アップです。この階級では、イランの選手が頭一つ出ていて、その後にウズベキスタン、カザフスタン、フランス、ジョージアといった国々の選手が続いています。来年には、パリ2024大会が控えているのですが、今の自分はギリギリいけるかどうかというライン。体重管理をしながら、これからの試合でしっかりと勝ちをつかんでいく必要があります。」

 そして、目指すは金メダルですね。

「はい。東京2020大会の表彰式のとき、隣で金メダルをかけている選手を見ながら、やっぱり金メダルがよかったなって悔しさが込み上げてきたんです。それでも、大勢の方が応援してくださった出身地の福岡県糸島市で、お礼を兼ねて銅メダルを持ってあいさつすると皆さん、心から喜んでくださって。もし、金メダルだったらもっともっと喜んでくれたに違いありません。だから、今度こそ金メダルを手にしたいです。小さい頃から見守ってくれた市民の皆さんや支えてくれている会社、家族の期待に応え、貢献できるよう、精いっぱい、これからの試合にも臨んでいきたいです。」

散策も楽しめる緑豊かな皇居周辺

瀬戸選手から見て、東京という都市の魅力はどんなところに感じますか?

「視覚障がい者としての観点から見ると、道路は点字ブロックやスロープもあってバリアフリー化は進んでいるように思います。駅には音声案内もあるため安心して利用できます。何より、電車やバスなどの公共交通機関が充実しているのはとてもありがたいです。私たち視覚障がい者は車の運転ができず、徒歩で出歩くのにも限界があるので、地下鉄などに乗ってスポーツ観戦やショッピング、食事に行けるのはとても助かります。そういう意味では、東京2020大会のときには、選手村を車いすや白杖はくじょうを持った選手の皆さんが自由に移動できている環境が素晴らしいなと感じました。日常でもこの光景を見ることができたらうれしいですね。」

観光という視点で見るといかがでしょうか。

「個人的には、東京 2020オリンピック・パラリンピック競技大会で柔道の競技会場になった日本武道館もある皇居の周辺がお気に入りです。緑が多くて広々としていて気持ちがいいです。東京の中心でありながら、散策やジョギングもできますし、もちろん史跡巡りなどの観光にもうってつけ。都心でありながら自然も楽しめる、まさに東京を代表するスポットですので、ぜひ足を運んでいただきたいです。」

瀬戸勇次郎
SETO Yujiro
2000年、福岡県出身。先天性の目の病気による弱視で色覚異常 があり、4歳から柔道を始める。高校3年生だった2017年に視覚障害者柔道に転向し、第10回全国視覚障害者学生柔道大会に出場。翌2018年、第33回全日本視覚障害者柔道大会でパラリンピック3大会金メダルの藤本聰を破り一躍脚光を浴びる。その後、国際舞台で経験を積み、東京 2020パラリンピック競技大会の出場権を獲得。2021年8月、初出場となる東京 2020 パラリンピック競技大会で銅メダルを獲得。