07/24/2023

水泳とオリンピックの経験で得た新たな気づき
-岩崎恭子さん

14歳で金メダリストに

夏季オリンピックの人気競技のひとつが競泳。第25回オリンピック競技大会(1992/バルセロナ)では、あるひとりの少女に注目が集まりました。その少女とは、水泳・競泳女子200メートル平泳ぎで当時のオリンピック記録を塗り替えるタイムで競泳史上最年少金メダリストに輝いた岩崎恭子さん。14歳で一躍脚光を浴びた岩崎さんに、水泳の魅力やオリンピックへの想い、そして、最近の活動内容について伺いました。

水泳を通して自分の世界が広がる

岩崎さんが水泳をはじめたのは5歳のとき。先に水泳を習っていたお姉さまを追いかけるようにスイミングスクールに通ったそう。
「実は私が2歳くらいのときに、父が急性白血病を患ったんです。無事に完治はしたのですが、子どもたちは丈夫な体になってほしいという父の願いもあり、姉に水泳をすすめたことが姉妹で競泳をはじめるきっかけになりました。実際に習ってみると、練習すればするほど早く泳げるようになるのが嬉しくて。進級テストに合格すれば、どんどん上のクラスに行けるという目標を持てたことも興味を持って続けられた要因になっています。」

小学6年生で日本選手権に初出場。そして中学2年生になったばかりの第25回オリンピック競技大会(1992/バルセロナ)で日本選手最年少での出場を果たします。

「その頃の私はまさに成長のピーク。予選から自己記録どころか日本記録まで更新し、オリンピックの決勝でとうとう優勝候補のアニタ・ノール選手を抜いて2分26秒65という当時の五輪新記録まで叩き出しました。自分自身、何が起こったのか分からない状況。多くのアスリートが4年に一度のオリンピックに照準を定め、日々の努力を行なっています。私の場合は、偶然にもオリンピックの本番と自分のピークがピンポイントで合致したんです。そもそもまだ14歳。余計なことを考えずに、勢いよくありのままの自分で泳ぎに集中できたことも、よかったのだと思います。」

世界で堂々と闘う若者たちに期待

第25回オリンピック競技大会(1992/バルセロナ)に続いて、第26回オリンピック競技大会(1996/アトランタ)にも出場。その後の大会も、スポーツキャスターとして現地でのレポートなどもされています。
「私にとってオリンピックは、他の国の選手の皆さんから学ぶことがとても多い、貴重な場でもありました。例えば、第27回オリンピック競技大会(2000/シドニー)で競泳に出場し、溺れかけながらも必死になって100mを泳ぎ切った赤道ギニアのエリック・ムサンバニ選手。彼がそれほどの距離を泳いだのはオリンピックが初めてだったのです。プールが身近にあり、いつでも泳げることが当たり前ではない。世界にはきれいな水で泳げる環境すらない人達が大勢いる。そういうことにはじめて気づくことができたのです。」

 第 32 回オリンピック競技大会(2020 /東京)では、スケートボード女子ストリートの西矢椛選手が岩崎さんの五輪メダル最年少記録を更新したことでも話題になりました。
「私が金メダルを獲ってからもう30年近く経ったんですよね。あの頃の自分はまだまだ考えも幼くて。それに比べ、西矢選手をはじめ今の若い選手は物怖じせずに、世界の舞台で闘うことをしっかりと意識している。選手自身はもちろん、選手を支えるコーチやトレーナー、練習方法、環境などすべてにおいてレベルアップしていて、今後がますます楽しみです。」

年齢に関係なく楽しめるのが水泳の魅力

競泳にはさまざまな種目がありますが、岩崎さんが金メダルを獲った平泳ぎの魅力や特徴にはどんなことがあるのでしょう。
「クロールやバタフライなどは、パワーで押し切れる筋力を持つ欧米人が断然有利。けれど、そうしたパワーでは劣る体型でも、頂点を目指せるのが平泳ぎの魅力です。平泳ぎは、水の抵抗が少ない小柄の体型のほうが有利ですし、手と足の使い方などのテクニックを極めることでタイムを伸ばすことができます。実際、日本人の金メダリストを多く輩出しているのも平泳ぎです。」

現在、岩崎さんは子どもたちをはじめ、さまざまな世代に向けて水泳の魅力を伝える活動をされています。
「水泳は、泳げるようになったときの感動から始まり、泳げる距離が長くなったり、タイムが早くなったりするたびに、自分に自信が持てるようになります。さらに、速さを競うだけではなく、体力づくりにも活かせるというメリットもあります。泳ぐことで体幹も肺活量も鍛えられますし、泳がなくても水の中を歩くだけでもエクササイズにもなります。ケガの心配も少なく、0歳からご年配の方まで、いつでも始められるのも水泳の魅力でもありますよね。」

故郷の海岸で環境保護活動もスタート

大学へ進学と同時に上京し、東京で暮らしている岩崎さんにとって東京という都市の魅力はどんなところに感じますか?
「大都会ということは言うまでもないのですが、緑豊かな自然が都心部にも思った以上にあるところですね。例えば、新宿御苑や浜離宮恩賜庭園は息抜きをしたいときによく足を運んでいます。浜離宮恩賜庭園は江戸時代から続く庭園で敷地内には茶屋もあり、広々とした庭園を眺めながらお抹茶とお菓子を頂くこともできます。海外からの観光客にもぜひおすすめしたい場所です。」

最近では、ご実家のある静岡県沼津市でビーチクリーン活動を行うなど環境問題にも取り組んでいらっしゃいます。
「18歳まで過ごした故郷で何か自分にできることをと考え、2022年の春から月に1回のペースで海岸の清掃活動を行なっています。沼津は東京から新幹線で1時間ほどの距離にありながら、海も山もあり、食べ物もおいしい素晴らしい場所です。きれいな海と美味しい海の幸、山の幸を楽しみに、東京観光のついでに足を延ばしてみてはいかがでしょうか。」

<プロフィール>
岩崎恭子
IWASAKI Kyoko
1978年生まれ、静岡県出身。5歳より水泳をはじめ、小学6年で日本選手権初出場。1992年、第25回オリンピック競技大会(1992/バルセロナ)にて、当時の五輪記録を塗り替えるタイムで競泳史上最年少となる14歳で金メダリストに輝く。1996年の第26回オリンピック競技大会(1996/アトランタ)では、200m平泳ぎ10位。1998年の学生選手権を最後に20歳で競技生活を引退。現在は水泳のレッスンや『着衣泳を広めるプロジェクト』を発足し、講演会・イベント出演を通して水泳の楽しさや水辺で楽しく安全に遊ぶ方法を伝える活動をしている。他、スポーツコメンテーターとしても活躍。