03/02/2023

一日を濃密に過ごせる街、東京
-寺川 綾さん

スポーツの奥深さを実感したオリンピック

1896年の第1回オリンピック競技大会から実施され、現在では、男子、女子、混合合わせて30種目以上が行われる競泳競技。その競泳でオリンピック2大会に出場し、2012年ロンドン大会では100m背泳ぎと400mメドレーリレーで銅メダルを獲得した寺川綾さん。現在はスポーツキャスターとして活躍する寺川さんに、競泳の魅力やオリンピックの思い出に加え、東京のおすすめスポットを伺いました。

分かりやすいからこそ面白い

50m背泳ぎ、100m背泳ぎの日本記録保持者でもある寺川綾さん。水泳は3歳のときから始めていたそう。

「当時、小児喘息を患っていて、お医者さまに運動をしたほうがいいと言われたことがきっかけです。友達とワイワイと遊ぶ感覚で競争を楽しんでいたらどんどん泳ぐのが早くなって。もともと負けず嫌いの性格なんですよね。小学校入学の頃には、選手育成コースに入っていました。コーチのすすめで最初はバタフライをメインに練習していたのですが、その後、背泳ぎに転向。物心ついたときから今まで、競泳一筋です」

競泳の魅力はどんなところにあるのでしょう。

「ヨーイ、ドン!でみんながいっせいにスタートし、早く泳ぎ切った人が勝ちという分かりやすさがいちばん。自分に与えられたレーンで、誰にも邪魔されることなく泳ぎに集中し、記録を狙うというシンプルがゆえにメンタルも鍛えられる競技だと思います。私が専門にしている背泳ぎは、ずっと顔を上に向けているので景色を見ながら泳げるのも魅力。距離が長い種目に関しては、前半と後半でどうペース配分するかの駆け引きもあり、見ていても楽しめますよね」

期待を超えて手にしたメダル

オリンピックをはじめ、数々の国際大会に出場してきた寺川さん。中でも、2012年のロンドンオリンピックでは2種目でメダルを獲得し、大活躍。大きな話題となりました。

「ロンドン大会のメドレーリレーで手にした銅メダルは私にとって特別なものでした。というのも、前評判では、良くて5位、メダル獲得は無理だろうと言われていたんです。そんなふうに言われると悔しいじゃないですか。予想を絶対に超えてみせようと、メンバーのみんなで団結。予選で何位になれば、決勝でどのレーンになって、レース展開に有利になるかなど、メダルを獲るために作戦を練り続けました。私は最年長だったこともあり、他のメンバーがご飯をちゃんと食べているか、体調はどうかなど、プール以外の生活面でも気にかけていたくらい」

その結果、周囲の予想を覆し、見事銅メダルを獲得。

「嬉しかったですね。最後は熾烈な3位争いを制し、タイムは日本新記録も更新。私たちの活躍を見ていた男子陣が『俺たちも絶対にメダルを獲るぞ!』と奮起し、銀メダルを獲得したのも嬉しかった。あれから10年以上が経ったんですね。懐かしいです」

新たな気づきを得た東京大会

第 32 回オリンピック競技大会(2020 /東京)では、大会のリポートなどを行なうスポーツキャスターとして活躍。現地ではどんなことを感じていたのでしょうか。

「まず、無観客での試合というナーバスにならざるを得ない状況のなかでも、ベストを尽くそうと集中して試合に挑む選手たちの姿に心打たれました。また、あらゆる競技のアスリートたちの話を聞いたり、観戦することで、新鮮な驚きを感じたこともたくさん。特に、馬術やサーフィンなど、馬、波といった選手本人以外のコンディションが競技に大きな影響を及ぼす種目には考えさせられることがありました」

競技を観戦するなかで、選手自身がコントロールしきれないものに勝敗が委ねられる場面を何度か目にしたそう。

「競泳は、ルールで公平性が厳しく定められているだけに、その違いがある意味衝撃的でした。日々、努力を重ねて挑むそのときに、“運”みたいなことで負けるなんて、もし、自分だったら悔しくて心の整理がつかないんじゃないかなと思えて。けれど、選手たちは冷静に、馬を優しくなでたり、海に向かって感謝するようにひざまずいたりして、その場を後にするんです。記録の更新や勝つことをゴールにする競技ばかりではないんだ。常に自然や生き物と対峙しながら挑むスポーツもある。そうした発見と、その競技に挑む選手の皆さんにお会いし、交流を持てたことが、東京 2020 大会での大きな収穫でした」

江戸情緒を楽しめる日本橋エリア

多くの経験を得たという東京 2020 大会では、その舞台となった東京という街の魅力を新たに見出すこともできたそう。

「どの競技場も電車や地下鉄など交通の便がよく、観戦と絡めてさまざまな街へ行き、観光を楽しむことができます。例えば、飛行機で早朝に羽田空港や成田空港に着いたら、朝ごはんを食べに築地や豊洲へ。築地も豊洲の市場も駅から近いので本当に便利。腹ごしらえをしたらスポーツ観戦に出かけ、そのあとはまたショッピングや観光など楽しむことも。一日を濃密に過ごせるのも交通網が発達している東京ならではですよね」

東京在住の寺川さんがおすすめする街もぜひ教えてもらいたいところ。

「私も以前住んでいたことのある日本橋界隈はいかがでしょうか。日本橋浜町や人形町周辺は、たい焼きやコロッケなどを食べながら街を散策できます。しかも、そうした食べ物やさんはどこも老舗で味にこだわりがあって美味しいんです。江戸時代から続く歴史ある街で、近くには隅田川が流れ、三越や高島屋といった有名百貨店があるエリアまで歩いていくことも。東京の伝統を歩きながら見て、食べて楽しむことができる街です。ぜひ、スポーツ観戦の合間に足を運んでみてはいかがでしょうか」

<プロフィール>
TERAKAWA Aya
1984年、大阪府出身。3歳より水泳を始める。2001年、高校2年生で世界水泳選手権に初出場。翌2002年パンパシフィック水泳に出場し、200m背泳ぎで銀メダルを獲得。アテネ、ロンドン五輪2大会出場。2012年のロンドン五輪では個人種目(100m背泳ぎ)、リレー種目(4×100メドレー)の2種目で銅メダルを獲得した。50m背泳ぎ、100m背泳ぎの日本記録保持者。2013年12月に現役を引退。現在はスポーツキャスターをはじめ、多方面で活躍。