10/24/2022

スポーツも伝統文化も楽しめる街・東京
-矢澤亜季さん

自然との一体感を味わえるスラローム

パドルを駆使して艇を操りながら、急流に挑むカヌースラローム。ゲートを通過する技術とスピードを競う迫力ある展開が人気のスラロームで、日本代表としてリオ、東京2020とオリンピック2大会連続の出場を果たしたのが矢澤亜季さんです。カヌー競技の魅力はどんなところにあるのか。また、幼い頃から日本舞踊もたしなんでいたという矢澤さんがおすすめする東京の観光スポットについても伺いました。

自然美豊かな天竜川が最初の練習場

パドルを巧みに動かしながら、渦巻く流れの中を果敢に進むカヌースラローム。矢澤さんがカヌーをはじめたのは小学校3年生のとき。父親の指導のもとで先にカヌーをはじめた3歳年上の兄の練習について行ったときに「自分もやってみたい!」と申し出たそう。

「ひとりしか座れない小さなボートに乗って、パドルを動かしてみると面白いように水の上を移動することができて。スイスイと自由に水上を動き回れる楽しさにすっかりはまりました」

矢澤さんが生まれ育ったのは長野県飯田市。市内を流れる天竜川の上流は、巨大な岩が両岸に聳え立つ絶景が見事な名勝地で、船下りやラフティングスポットとしても知られています。その天竜川が矢澤さんにとって幼い頃からの練習場。

「穏やかな流れのところもあれば、こんなところ下れるの?と思う激流の岩場もある。自然が生み出す変化に富んだ水流に挑めるのが何よりの魅力でした。それに、水面から眺める景色は、それまでの見慣れた風景とは違う発見もたくさん。川の中を泳ぐ魚やその魚を狙う鳥たちの姿。切り立った岸壁は水面から見るとさらに迫力があり、春の桜、秋の紅葉、冬の雪景色など、どの季節も新鮮に感じられました」

無観客でも優しさにあふれた東京五輪

自然との一体感を味わえるカヌーも、競技となると息を抜けないシーンの連続。

「コースに設置されたゲートを通過する技術とスピードを競うのがスラローム。競技では、スタート前に、まず、コース全体のライン取りや各ゲートをどのくらいの角度で入っていくか、回り方はどうするかを考えます。いざ、漕ぎ出すと、水の流れも波の立ち方も一定ではないため、瞬時の判断でパドルを操作しゲートをくぐっていかなければなりません。一瞬一瞬のかけひき、反応の速さ、パドルさばきによってコンマ1秒の差が生まれる。競技としてはアルペンスキーに似たところがありますね」

2大会連続出場となった東京2020オリンピック。自国開催のオリンピックはどんな印象だったのでしょうか。

「決勝進出を目指して挑みましたが、準決勝で敗退。悔しい結果となりました。大会を終えた今は、多くの方々のサポートを得て大舞台に立てたことへの感謝と新たなスタートラインに立ったという新鮮な気持ちでいます。大きな収穫となったのは、あらためて日本はいい国だなと思えたこと。無観客という前代未聞のオリンピックでしたが、会場のアナウンスで雰囲気を盛り上げてくれたり、競技場の入り口ではボランティアの方々が一生懸命に手を振って出迎えと見送りをしてくれたりする。なかでも緊迫する空気感をやわらげてくれたのが、地域の小学生たちが植えてくれたという朝顔の花。元気いっぱいに咲く朝顔に多くの選手たちが勇気づけられたと思います」

都心でも郊外でもカヌーを楽しむ

第32回オリンピック競技大会(2020/東京)を機に、カヌーを体験できる施設も増えました。そのひとつが東京2020オリンピック会場にもなったカヌー・スラロームセンター。

「日本初の人工スラロームコースで、年間を通して水上でのアクティビティを楽しんだり、夏にはカヌーやラフティングを気軽に体験したりすることができます。日本有数の水族館や大観覧車がある葛西臨海公園に隣接しているので、ご家族でお越しになる方も多いようです。羽田空港からも近く、飛行機が飛び交う下でカヌーに乗るのも都会っぽくて、東京らしさを味わえますよね」

郊外に足を延ばせば、自然豊かなロケーションでカヌーも楽しむことも。

「都心から電車で90分ほどで行ける奥多摩では、森に囲まれた湖などでカヌーに乗ることができます。他にも、東京都昭島市にあるモリパークでは、さまざまなアウトドアアクティビティを体験できる施設があり、時期によっては屋内でカヌー体験などのイベントを開催しています。私もゲストとしてデモンストレーションや特別レッスンを行ないました。広大な敷地にはクライミングウォールもあり、スポーツ好き、アウトドア好きならぜひ、足を運んで頂きたい場所です」

江戸情緒あふれる浅草がお気に入り

実は、日本舞踊の名取という顔も持つ矢澤さん。

「日本舞踊歴はカヌーよりも長くて、3歳のときから祖母に習い、今も続けています。カヌーは“動”、日本舞踊は“静”。相反する世界ですが、私にとっては心身のバランスを取る上で、とても役立っているんです。例えば、カヌーの試合に向けて気持ちを集中させたいときは日本舞踊のお稽古をして心を落ち着かせます。体幹を使ってしなやかに踊る動きは、カヌーでの安定感ある下半身使いにもつながっています」

日本舞踊をたしなむ矢澤さんがおすすめするもうひとつの東京のスポットが浅草。

「中学生の頃に舞台用のカツラを誂えるために長野から浅草へはじめて行ったとき、老舗の扇子屋さんなど江戸情緒あふれるお店が立ち並ぶ様子に心が躍りました。古きよき日本の文化が根付く浅草は、日本人、外国人問わず楽しめる街。私には、カヌー選手として世界の頂点を目指すという目標のほかに、日本舞踊の公演が数多く開催される浅草公会堂の舞台に立ちたいという夢があります。東京には、日本の伝統文化や四季折々の風情、さまざまなアウトドアスポーツを堪能できるスポットもたくさん。ぜひ、都心から郊外まで東京のあらゆる場所に足を運んでみてください」

<プロフィール>
YAZAWA Aki
1991年、長野県出身。カヌー選手だった父の指導で兄とともに小学生の時から競技を始める。中学校2年時に日本ジュニアで優勝。3年時に世界ジュニア出場、全日本選手権優勝。2018年にアジア大会で優勝。オリンピックは2016年リオデジャネイロ大会に続いて東京2020オリンピック大会にカヌースラローム女子カヤックシングルで出場。カヌー選手として活躍する一方、幼少期から日本舞踊もたしなむ。