今回は2007年に世界バドミントン選手権の男子ダブルスで日本人初のメダルを獲得し、2008年の北京、2012年のロンドンと2大会連続でオリンピックに出場した池田信太郎さん。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、選手村の飲食提供計画にも携わった池田さんに、東京体育館を訪れながらバドミントン競技への思いとともに、東京でのおすすめの食、観光地などを伺いました。
父親がジュニアクラブのコーチをしていたことから、幼い頃からバドミントンに親しんでいたという池田さん。
「ラケットとシャトルを手に、“遊ぶ”楽しさを知ったのが最初でした。そこから、試合に出て“勝つ”ことの喜びを体験することで『ひとつでも上を目指したい!』という目標が芽生え、その後のプロとしての競技生活に繋がっていきました」
バドミントンは老若男女問わず楽しめるスポーツ。一方、競技となるとそのスピード感は相当。
「バドミントンの打球の速さは、球技の中で最速なんです。世界一速いスマッシュの初速記録は時速493キロ。マレーシアの選手が出したこの球速は、ギネス記録に認定されています。試合ではおよそ1時間30分という間に、超高速のスマッシュが行き交うのですから、なかなかタフですよね。しかも、全力でシャトルを追いながらネットの向こうにいる相手の心理を読み、緩急をつけた技で相手のコートにシャトルを落としていく。フィジカル的なことだけではなく、心理戦も伴う、まさに心・技・体で完成させないと勝つことができないのがバドミントンという競技です」
1対1の熱戦が繰り広げられるシングルスはもちろんのこと、パートナー同士で試合に挑むダブルスも見ごたえは十分。
「ダブルスで重要なのはパートナーとの“対話”です。練習段階から出来ていること、出来ていないこと、乗り越えなければならないことを二人でとことん話し合う。ここで大切なのは、相手のプレーや考えを批判しないこと。相手を批判することは“逃げ”と同じ。向き合うことから逃げずに、世界一を目指すんだという共通の目標を持ち続けることがダブルスでは勝利の必須条件になります」
“対話”は試合でさらに重要度を増すそう。
「どちらかがミスをしてしまったら、必ず『大丈夫!大丈夫』と片方がフォローする。ダブルスに限ったことではありませんが、試合では『絶対に勝てる!』と信じ切れるかが重要です。たとえば、フィギュアスケートの試合でリンクに向かう選手にコーチが話しかけている場面がテレビなどでもよく映し出されます。あのとき、コーチは『大丈夫!絶対にできる!自分を信じて!』と声をかけています。試合の前、ミスをしたとき、タイムアウトのとき、ゲームが変わるとき、選手やコーチがどんな言葉を掛け合って気持ちを切り替えているか。スポーツ観戦ではそんなことにも注目して観るのもひとつです」
今年8月に日本で行われる世界バドミントン選手権大会2022の会場となるのが「東京体育館」。池田さんにとっても多くの思い出がある会場です。
「ヨネックスジャパンオープンをはじめ、日本で開催される国際大会の会場となるここ東京体育館は、日本のバドミントン選手にとってはまさに聖地、憧れの舞台です。私も、2006年に開催されたヨネックスオープンジャパンの男子ダブルスでベスト4入り。これは男子ダブルス日本勢としては21年ぶりのことでした。選手にとって、この東京体育館は、自分の実力を証明する場所でもあるんです」
2015年、競技生活にピリオドを打ち、引退会見をしたのもここ東京体育館。
「現役時代は世界一になることを目標にひたすら練習を重ね、試合に挑んでいました。今、思うのは頂点を目指すまでに何を学んだのかというプロセスがいかに大切かということです。メダルというモノ以上に、挑み続けたプロセスそのものが自分にしか手にできない財産になっていることを実感しています」
アスリートの経験を活かし、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、選手村の飲食提供計画にも携わった池田さん。
「日本に滞在する選手の皆さんに少しでも日本の文化を食から感じてもらいたいと、選手村では、メインダイニングの他に日本ならではの料理を楽しめるコーナーも設けられました。『和食』は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている日本人の伝統的な食文化です。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で来日された選手の方々が楽しまれた和食を、もっと多くの方にも味わってもらいたいですね」
世界バドミントン選手権大会が開催される夏季に池田さんがおすすめしたい和食や観光スポットとは?
「お寿司のネタで私が大好きな“光り物”と呼ばれる、コハダやサバ、アジをおすすめしたいです。酢で締めているのでさっぱりとした味わいで暑い夏にぴったり。観光であれば、東京スカイツリーの天望デッキからの眺めを堪能してはいかがでしょう。東京の下町に聳える高さ634メートルものタワーからは、ビル群と緑が織りなす都心の風景や湾岸エリアなど東京の全景を見渡すことができます。また、晴れた日には富士山を見ることも。『昨日、歩いたのはあの辺りだよね』などと、自分の行動を俯瞰的視点で振り返ってみるのも楽しいものです」
<プロフィール>
IKEDA Shintaro
1980年、福岡県出身。5歳からバドミントンを始める。2007年世界選手権男子ダブルスで日本男子初のメダルを獲得。2008年北京オリンピック出場。2012年ロンドンオリンピックでは混合ダブルスに出場。2015年9月に現役を引退し、現在は東京と軽井沢の二拠点生活を送りながら、外資系企業でコンサルタントとして活躍。