東京2025世界陸上でのメダル候補として注目を集めているのが、男子3000m障害物の日本記録保持者、三浦龍司さん。東京2020オリンピック競技大会、ブダペスト2023世界陸上、パリ2024オリンピック競技大会と世界大会で立て続けに入賞。日本の3000m障害物を一気に世界レベルへと引き上げた立役者でもあります。自国開催での世界陸上を目前に控える今の心境の他、競技の魅力や、観戦とともに楽しめる東京のおすすめスポットを伺いました。
陸上競技の中でも特に過酷でエキサイティングなレースとして知られる3000m障害物。三浦さんがこの種目に取り組まれたのには、どんなきっかけがあるのでしょうか。
「小学1年生の時から地元の陸上クラブに所属して、長距離や80mハードル、走り幅跳び、高跳びなど、いろんな種目をこなしていました。そんな僕の様子を見ていたコーチに、3000m障害物が向いているのではとすすめられたのがきっかけです。その後、陸上の強豪校でもある京都の洛南高等学校に入学したのを機に本格的に取り組むようになりました。」
コーチに3000m障害物をすすめられたときはどんな気持ちでしたか。
「中学時代は1500mや3000mでジュニアオリンピックなどの全国大会に出場していたものの、いつも予選敗退。全国のレベルの高さを痛感しながら、とにかく自分の走力を上げなければと自主練に励んでいました。自己記録を更新するなど、ようやく成果が出始めていた頃に、3000m障害物をすすめられて。自分らしく挑める土俵があるならばと、興味を持ちました。」
実際に競技をしてみた印象はどうでしたか。
「通常の中距離レースと同じようなペースで走りながら水濠や障害物を越えていくため、転倒や選手同士の接触のリスクもある。なかなか緊張感のある、スリリングな種目だと思いました。さすがに最初は恐怖心が先に立ち、難しさを感じましたが、元々飛んだり、跳ねたりという動きが得意だったので、慣れるのに時間はかかりませんでした。怖さが消えたら、あとは楽しむのみ。他の選手との差が縮まっていくことで、どんどん競技にのめり込んでいきました。」
瞬く間に頭角を現し、大学に入ると日本記録を更新するなど一気に注目を浴びる存在に。そして、世間を沸かせたのが東京2020オリンピック競技大会での7位入賞という快挙です。
「自分の中では、予選レースが特に印象に残っています。それまでに出していた記録は8分15秒99。初めての国際大会、しかもオリンピックという大舞台での一歩となる予選で8分09秒92と、初めて9秒台に乗ったというのがうれしくて。大きな壁をブレイクスルーできたことで、着実に世界に近づいているという手応えを得ました。」
そこからブダペスト2023世界陸上で6位、パリ2024オリンピックで8位と、世界大会で立て続けに入賞。さらに、東京2025世界陸上を2カ月後に控えたダイヤモンドリーグ・モナコ大会では、自身が樹立した日本記録を一気に6秒以上更新する8分03秒43をたたき出し、2位となりました。
「実は、今年の初めにけがをし、ここしばらくタイムも上がり切っておらず、出遅れている状況だったんです。そこで、世界陸上に向けて気持ちを切り替え、まずは日本記録を出して世界との差を縮めていきたいとは考えていました。幸い、走りの質も上がり、気持ちにも余裕が出てきて。これは意外と良い記録が出るのではないかという予感もありました。」
軽快な走りはもちろんのこと、終盤に追い上げるレース展開も見事でした。
「もともとラストスパートでの追い上げが自分の強みでもあるので、最後尾からつけていくのは作戦。それが想像以上にハマりました。というか、ハマり過ぎたくらい。」
ラスト1周まで独走態勢だった絶対王者、ソフィアン・エルバカリ選手を抜くなど、最後のデッドヒートは、見ている方も手に汗を握りました。
「今までにない、いちばん切れのあるラストスパートだったと僕自身、思います。他の選手も追ってくるかなと思ったのですが、意外と差をつけることもできて。最後は、さすがの王者に抜き返されたのですが、自分の中で、また一歩前へ進めるという自信につながりました。」
他の選手との勝負に挑みながら、自身の記録も更新していく。3000m障害物という種目ならではの奥深さがレースを見ているとよく分かります。
「記録を更新するというのは、アスリートにとっては一つの醍醐味。一方、大会になれば順位が最も重要視されます。外国人選手との競り合いに、自分の走力で勝っていくというのは、大きな手応えになるし、この競技の真骨頂でもあると思います。」
あらためて、3000m障害物の見どころを教えてください。
「序盤では、選手がひしめく中での位置取りをどれだけスムーズにできるかがポイントになります。レースペースが重要になる中盤は、誰がどのように仕掛けてくるかなど、ラストスパートのタイミングをうかがうような緊張感が出てくるのが面白いところ。そして終盤。最後は、たたき合いというか、1位を取りに行くためだけのサバイバル。もう泥くさいというか、露骨に闘志をむき出しにした走りでゴールを目指します。コース内には、接触や転倒などのアクシデントを誘発するハードルや水濠があり、そこで一つ前に出たり、逆にロスする人がいたり。その中で、どこで誰がどう仕掛けるか、レース全体を通して選手の戦略を見るのも面白いですよ。」
トラック競技の中でも特に過酷といわれている種目に挑まれながら、とても楽しそうに語る三浦さんの姿がとても印象的です。
「実際、楽しいですよ! レースの中で、障害物を越えていくテクニックや駆け引き、スピードなどいろいろな要素が組み合わさっているだけに、見れば見るほど面白いですし、やればやるほど面白い。それこそ、自分の得意としているラストスパートで、今まで勝てなかった海外選手を抜いたり、タイムを上回ったりした時には、思わず『よっしゃー!』と声に出るほどうれしくなります。」
東京2025世界陸上が間近に迫ってきました。今の心境をお聞かせください。
「東京2020オリンピックの時から、自分がどれだけ成長をしたのかを実感できる大会にしたいです。もちろん、目指すのはメダル。自分の得意とするラストスパートを武器に、モナコの時よりもさらにクオリティを上げた走りをレースで見せたいと思っているので、ぜひ期待していてください。」
世界陸上は、三浦さんをはじめ、世界トップレベルの選手の皆さんの活躍を間近で見られる、最高の機会になりますね。
「特に今は、さまざまな種目で世界記録保持者がいるという貴重な時代。トラック種目、フィールド種目ともに、目が離せないくらいレベルの高い競技が行われます。世界各国からトップオブトップの選手が東京に集まるのですから、それだけでテンションが上がります。多くの皆さんに競技場に足を運んでいただき、さまざまな競技を見て、楽しんでもらいたいです。」
大会期間中は海外からも多くの方が東京へ観戦にいらっしゃいます。三浦さんおすすめのスポットがあれば教えてください。
「僕は東京の夜景を見るのが好きで、特に首都高を車で走りながら見る東京タワーは、かっこいいなと思いながら眺めています。観戦の合間に、自分も体を動かしたくなったら、皇居ランはいかがでしょうか。皇居の外周路を走る1周5キロのコースからは、丸の内界隈のビル群など、都会の夜景を眺めることもできます。もちろん昼間もおすすめ。緑が多い皇居周辺を気持ちよく走れるのでおすすめです。」
MIURA Ryuji
2002年生まれ。島根県出身。洛南高等学校、順天堂大学を卒業後、SUBARU陸上競技部所属。専門種目は、中距離、長距離、主に3000m障害物。3000m障害物で、東京2020オリンピック競技大会で7位、パリ2024オリンピック競技大会で8位と、日本人初となるトラック個人種目でオリンピック2大会連続入賞を達成。2025年7月のダイヤモンドリーグ・モナコ大会では、自身が持つ日本記録を6秒以上更新する8分03秒43をマーク。東京2025世界陸上では、悲願のメダルを目指す。