06/24/2025

自転車競技のスピードと駆け引きの世界に魅せられて
-兒島直樹さん

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自転車競技で挑む世界の頂点

2024年の全日本自転車競技選手権大会で4つのタイトルを獲得し、2025年2月に行われたアジア選手権大会トラック男子オムニアムで見事優勝。今、最も注目を集める自転車競技者、兒島直樹さんに、ロードとトラック、それぞれの魅力や、競技人生の転機、今後の目標について伺いました。さらに、2025年7月に開催される「THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2025」の見どころについても語っていただきました。

人生を変えた初めてのバンク体験

兒島さんが自転車競技に関わるようになったのはどんなことがきっかけだったのでしょうか。
「自転車通学をしていた中学の頃は毎日の通学が自転車レース。登下校では友達と速さを競っていました。ママチャリなんですけれど、決まって1位は僕。自転車なら負けない自信がありました。そんな時に、テレビでロードレースの大会を見て、自転車で競い合う競技があることを知りました。それ以来、颯爽と走り抜ける選手の姿が頭から離れず、周囲に話しているうちに、知人を通じて久留米競輪場を見学させてもらえることになったんです。」

中学生ではなかなかできない体験ですね。
「試しに、下の方だけでも走ってみない?と言われて、初めてバンクに上がらせてもらいました。傾斜は45度。さすがにその高さに圧倒されました。下から見上げると怖いのですが、自転車で走ってみると思いの外気持ちよくスピードに乗れて。下を見ないで前を見ることだけを考えてペダルを踏み続けていたら、いつの間にかバンクの一番高い所まで到達していました。」

怖さを感じない走りに、周りの人たちも驚いたのではないでしょうか。
「初めてバンクを走って、てっぺんまで行ける人はなかなかいないらしく、びっくりされたこともうれしくて。レース用の自転車も、それに乗って味わうスピード感も、全てが新鮮で、瞬く間に虜になりました。元々野球部だったのですが、引退をきっかけに、週末は競輪場に足を運び、地元の祐誠高校の選手たちに交じって練習をさせてもらうことに。結果的に、自分も祐誠高校に進学し、自転車競技の道を歩むことになりました。」

虎視眈々と狙う勝利のチャンス

自転車競技の中でも、ロードレースとトラックレース、それぞれどんなところに魅力を感じますか。
「ロードレースは公道を使ったダイナミックな展開と、景色の変化、そしてチーム戦ならではの駆け引きが面白いですね。一方、トラックは一瞬の判断が勝負を分ける緊迫感があります。同じコースをグルグルと回りながらも1周ごとに展開が目まぐるしく変わるところが魅力であり、競技の醍醐味です。」

現在、兒島さんがメインにしているトラック競技の中でも、好きな種目は何でしょうか。
「ポイントレースが好きですね。駆け引きが多く、最後の最後まで勝敗が分からないところが面白い。僕は中盤から終盤にかけて仕掛けるタイプです。それまでは風を受けない位置で力を温存しながら、他の選手の動きを冷静に見て、タイミングを見計らって一気に勝負に出る。周りからはよく“ポーカーフェイス”って言われるのですが、虎視眈々とチャンスを狙いながらレース展開を組み立てつつ、自分の戦略を読ませないのが、僕のスタイルです。」

進化を目指して新たな挑戦へ

トップアスリートとして飛躍するきっかけとなった出来事について教えてください。
「高校2年の時のインターハイですね。初めての全国大会で、正直、出場したことに満足して、気が緩んでいたんです。恥ずかしい話なのですが、レース前にゲームをして時間を潰したり、試合に集中できていなかった。案の定、あっさりと予選で敗退しました。その時に監督にこっぴどく叱られて。そこで初めて、自分が期待されていたこと、その期待を裏切ったことに気付きました。」

出場に満足していた自分を見つめ直すことで、意識が変わったのですね。
「自分で勝手に限界を決めて、勝手に満足してはダメなんだと思い知りました。勝つためには、試合の前から全力で向き合う必要がある。そう決めてからは、自分の中でスイッチが入りました。」

実際、高校3年では全国大会で次々と大会新記録を更新。大学でも実績を重ね、チームブリヂストンサイクリングに加入し、現在ではナショナルチームの一員として活躍することに。
「とはいえ、まだまだ実力が足りていません。目指していたパリ2024オリンピック競技大会の出場も叶いませんでした。でも、自分にはまだ伸びしろがあると思っています。そこで、自分の可能性を広げるべく、今年5月から日本競輪選手養成所に入所しました。スプリント力の強化やメンタルの成長も含めて、自分を鍛え直すための挑戦です。」

さらに進化した姿を見るのが楽しみです。今後の具体的な目標などあればぜひお聞かせください。
「ロサンゼルス2028オリンピック競技大会でメダルを取ること。そして、中学3年生で初めて競輪場に立った時に夢見た競輪選手になり、活躍すること。この二つはなんとしても叶えたいです。」

多摩エリアが舞台の国際大会

今年7月には「THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2025」が開催されます。兒島さんは、2023年12月に開催された第1回大会に出場し、見事、初代チャンピオンとなりました。
「当時のレースで、強烈に印象に残っているのは沿道の応援のすごさです。観客の姿が途切れることなく、皆さんの声援がずっと続いていました。普段、僕はトラック競技がメインで久しぶりのロードレースだったのですが、観客の皆さんの応援が力になり、優勝することができたのだと思っています。」

今年の大会の見どころをぜひ教えてください。
「東京2020オリンピック競技大会のコースも組み込まれ、さらに多摩地域ならではのアップダウンと山間地帯を含むハードなコースが特徴です。何より、今年はUCI公認の国際大会にグレードアップし、海外のチームも参戦。それだけに、レベルの高いレースとなり激戦が予想されます。見どころは終盤に設けられた1周約16kmの周回コース。ダウンヒルでは80km/hを超えるスピード、厳しい登りもあるので、見応えは十分です。勝負の分かれ目になる場所ですから、観戦ポイントとしては見逃せません。どんなレース展開になるのか、誰が優勝するのか、僕も楽しみにしています。」

観戦するだけではなく、自分も自転車で走ってみたいという人に向けて、兒島さんがおすすめするサイクリングスポットがあればぜひ教えてください。
「僕がよく走っているのは、静岡県沼津市から富士市にかけての海沿いの道。駿河湾と富士山を眺めながら走るルートです。駿河湾と富士山を同時に堪能できるビューポイントがたくさんあり、自然の景色を感じながら走る時間は本当に贅沢な気分になります。初心者でも短い距離から楽しめるコースなので、ぜひ走ってみてください。」

KOJIMA Naoki
2000年生まれ、福岡県出身。祐誠高校から日本大学に進学し、男子オムニアムで全日本学生選手権3連覇を達成。2023年杭州アジア大会では男子マディソン、チームパシュートで金メダル。2024年全日本選手権では男子トラック4冠を達成。2025年アジア選手権男子オムニアム優勝。現在はチームブリヂストンサイクリング所属。日本競輪選手養成所でさらなる飛躍を目指す。