陸上女子100mで日本選手権3連覇を果たすなど、日本女子短距離界を牽引する一人でありながら、ボブスレー日本代表として世界選手権7位入賞の経験を持つ君嶋愛梨沙さん。夏、冬の競技に挑んできた君嶋さんの競技に寄せる思いや、これからの目標について伺いました。さらに、君嶋さんのおすすめの観光スポットなどもご紹介します。
陸上を始められたのは中学生になってからだそうですね。
「中学校に入学した当初は、テニス部に入りたかったんです。理由は、かわいいスカートをはいてみたかったから。もうね、単純というか、ミーハーというか。でも、テニス部は人気で希望者が多く、レギュラーになるのも難しそうだなと思っていた時に、陸上部の監督から陸上をやってみないかと声をかけていただきました。というのも、小学生の時のスポーツテストで走り幅跳びをした際に、山口県で一番になったことがあったり、走るのもそこそこ速かったりで、話題にはなっていたようなんです。自分が得意としていることに挑戦するのもいいかなと、陸上部への入部を決めました。」
全日本中学校陸上競技選手権大会の女子200mで中学記録(当時)を樹立するなど、すぐに実力を発揮しました。その後、今も第一線で活躍されていますが、陸上競技のどんなところに魅力を感じますか。
「とくに短距離の100mは、わずか10秒ちょっとの間に、勝負が決まるというハラハラドキドキ感。それは見ている人にとっても魅力的なところですよね。競技をする側は、その一瞬のレースに向けて日々、トレーニングを積み重ね、コンマ何秒をいかに縮めるかを考えながら体をつくり、テクニックを磨いていく。レース自体は一瞬だとしても、そこに挑むまでには、選手一人一人にストーリーがあり、思いがあり、支えてくれたり、応援してくれたりする人の存在もある。その全てがほんの十数秒の中に凝縮される。シンプルな競技だからこその奥深さを感じます。」
地元の山口県を離れ、陸上の名門、埼玉栄高校に進学。大学ではボブスレーの選手としても活躍されます。
「ボブスレーに出会ったのは大学3年生の時。人材発掘のためにトライアウトを行うというポスターを見た監督から試しに受けてみてはとすすめられたのがきっかけでした。ケガに泣かされ、思うような結果が出せていない時だったこともあり、ボブスレーに必要なパワーやスピードが陸上にも生かせるのではという可能性も感じてのトライでした。」
とはいえ、冬の競技になじみはあったのでしょうか。
「育ってきたのが山口県で、雪に触れる機会は全くありませんでした。中学校で陸上を始めた時もそうなのですが、人にすすめられると、まずはやってみよう!と挑戦する意識が芽生えるんです。自分に合うか合わないかは、やってから判断しようって。そうしたらまさかの合格。その2、3週間後にはドイツに行って、初めてソリに乗ってコースを滑ったのですが想像をはるかに超えるスピードと重力にびっくりしました。時速130kmくらいで滑り、体重の6倍くらいのGがかかるので、滑り終えてソリから降りると、足がフラフラしてまるで生まれたての小鹿状態(笑)。全くの初心者ながら、1カ月後のヨーロッパカップではまさかの1位になることができました。」
その後、ワールドカップにも出場し、競技を始めて4カ月後に世界選手権で7位入賞という結果を残すのはさすがです。
「ありがとうございます。自分としては、成績よりも、世界各国のいろんな選手と出会い、交流を持てたうれしさの方が大きくて。ボブスレーって、170kgほどあるソリを自分たちで運ばなくてはなりません。その時に、国やチーム関係なく、選手同士で手伝ったり、時には、道具の貸し借りをしたりするなど、関わることがとても多い。それがとても新鮮で、楽しくて。新しい扉を開けたことで、自分の世界がワッと広がった気がしました。」
ボブスレーと陸上の二刀流で活躍をされた後、再び陸上一本に絞られました。
「高校、大学、大学院とそれぞれの時期に、さまざまな経験を積んだことで自分の引き出しが増え、自分に自信を持つこともできました。その上で、もう一度、原点に戻って陸上にしっかりと向き合いたいと思ったんです。世界大会に出場すると、頂点に立つ選手たちとの違いを思い知らされます。だからといって、諦めたくはない。むしろ、世界の舞台で競い合うには、どんな体づくりをして、どんなトレーニングをし、どんなメンタルで臨むべきかを考えながら、自分を信じて前に進みたいなと。」
結果、2022年から日本選手権女子100mで3連覇を成し遂げます。
「夏冬どちらも世界選手権の出場経験はありますが、目標としていたパリ2024オリンピック競技大会、東京2025世界陸上に駒を進めたかったのですが、それはかなわず。悔しい気持ちでいっぱいです。」
それでも、なお、挑戦し続けるのには、何が原動力になっているのでしょうか。
「自分は、まだまだできる。という思いですね。実は、高校のときに陸上をやめようと思ったことがあるんです。陸上に全てを懸けるつもりで故郷を離れ、はるか遠い埼玉県の学校に来たのに、疲労骨折をしてしまい、練習すらままならなくなりました。同期は次々に活躍し、世界の舞台へと飛び出していくのに自分は何もできなくて。学校も辞めなくてはと思い詰めた時もあったのですが、いやいや、諦めるのはまだ早いって自分に言い聞かせました。自分で、陸上を極めると決めたんだから、もう少しやってみようって。」
逃げることをせずに、自分が選んだ道を信じたわけですね。
「はい。スランプの時って、つい周りを見てねたましく思ったり、ひがんだり、落ち込んだりしがち。でも、そういう時こそ心の矢印を外に向けずに自分に向けなくてはならないんです。ケガに泣かされていた大学生時代、『一緒に、10秒台を目指そう』と言ってくれた現コーチの言葉も自信になりました。当時のタイムでは、日本選手権のスタートラインに立てるレベルにもありませんでした。でも、コーチの言葉で、自分には10秒を目指せるポテンシャルがあるのかも!って、急に自信が湧いてきて。自分が選んだ道だし、応援してくれる人も、支えてくれる人もいる。自分のこれまでの経験が全て今の原動力になっています。」
今の目標を教えてください。
「日本選手権での王座奪還。日本女子初の10秒台。2026年に開催される第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)、そして、ロサンゼルス2028オリンピック競技大会出場です。そのためには、ケガをしない体でしっかりとしたフレームを作り、エンジンとなる筋力をアップさせ、最高の走りを生み出していくこと。そして、日々の練習を積み重ね、あとは、“人事を尽くして天命を待つ”のみです。」
年々、スポーツ観戦のために来日される海外からの観光客も増えています。君嶋さんおすすめのスポットがあればぜひ教えてください。
「今、拠点を置いている山口県の岩国市はおすすめです。長さ約193m、幅約5mの世界的にも珍しい構造の錦帯橋は国の名勝にも指定されています。そして、金運・開運・商売繁盛・交通安全のご利益がある岩國白蛇神社は、日本で唯一、天然記念物の白蛇が見られる神社です。赤い目をしたかわいい白蛇が出迎えてくれますよ。自然が豊かで食べ物もおいしい所ですのでぜひ足を運んでみてください。」
KIMISHIMA Arisa
1995年生まれ、山口県出身。中学2年生の時に、全日本中学陸上選手権大会の女子200mで当時の中学記録を出して優勝。日本体育大学時代にトライアウトを受け、ボブスレー日本代表として2016年のヨーロッパカップで優勝。翌年の世界選手権では日本人選手として男女史上初となる7位入賞を果たす。日本陸上競技選手権大会では2022年から2024年まで女子100mで3連覇を達成し、200mでも2023、2024年と連覇。2022年のオレゴン世界選手権で女子4×100mリレーで日本記録を更新。自己ベストは100mが11秒36、200mは23秒16。土木管理総合試験所所属。